===シャンバラへの旅===
カーラチャクラ灌頂とカイラス巡礼の旅

カーラチャクラ灌頂はチベット密教ゲルク派の最も重要な儀式です。
それは他の灌頂が修行を積んだ後の僧に対して行われるものなのに、
この灌頂だけは一般の人々に対しても開かれているものだからです。

2003年の1月14日より19日までインドのブッダガヤでダライ・ラマ14世により開催されました。
この灌頂を受けると私たちが未来にシャンバラという世界に行く時、役に立つのだと
ダライ・ラマ法王は述べています。                                                                 

世界とは


チベット人にとってシャンバラという世界は、極楽浄土と日本人が言うような死後の世界ではなく、
今この世の特定の地域に存在する現実世界なのです。

現実世界が一時的なものであるという思考から、仏教は始まりました。

私たちの魂は輪廻を繰り返し今ここにいるけど、
この世界だけが現実であると考えることは、幻であると考えています。

仏典の言う現実世界とは何でしょう。

華厳経の華厳世界品によると、世界は数多くの風輪が重なっていてその最上階に香水海があり、
海の中に一本の茎が突き出ていて、その上にある蓮華世界を支えていると考えています。

蓮華の花弁は雪山の形で香水の海を囲み、中央の大地は金剛(ダイヤモンド)で出来ています。
その中心にある花托は果実を収める穴がいくつもあいていて、それがまた香水海となっています。
その香水海の一つ一つに同じ様な世界があります。

その数は「不可説仏刹微塵数(ふかせつぶっせびちんざすう)」というのです。

その多数の世界のひとつに娑婆世界(この世)があるのです。

哲学者デカルトは「我思うゆえに我あり。」という言葉によって
精神と物体の二元論を後世に残しました。

しかしこの「ゆえに」は何の意味もありません。
「我思う」と独断することにより自我の存在を創造してしまったのです。

この考えが西洋近代の世界を作り、今その世界が崩壊しかかっています。

この世界観と相反する世界を真言密教では唱えています。
空海は「世界の構成要素は六大喩伽(ゆが)である。」というのです。

世界は六大(地・水・火・風・空・識=固体・液体・エネルギー・蒸気・氣・意識)の物質と
精神が混ざり合い(喩伽)出来上がっていると考えています。

それは重々無尽(華厳経)に重なり合って存在しているのです。

シャンバラが重なり合って存在しているとは、このような現実世界の見方が仏教(密教)にあるからなのです。

神秘の国シャンバラ


19世紀のロシアの探検家でもあり神秘家でもあるニコライ・レーリッヒは、
中央アジアからチベット地域を探検しシャンバラの存在を世界に広めました。

神智学を作ったロシアのブラバッキー女史も、
チベット奥地でマハトマ(聖者)からの教えを受けたことを後世に残しました。

「ロード・オブ・ザ・リング」「ハリー・ポッター」などの魔法映画が西洋で作られたのは
占星術・錬金術・魔法使いなどの歴史がまだ西洋に残っているからなのです。

そのオカルティストたちは、シャンバラに入ることこそ世界を征服することだと考えていました。

あのヒットラーは、チベット僧を招き秘密の儀式を開いていたそうです。
その後、彼が自殺をした館では多くのチベット僧の遺体が発見されました。

現実世界を変えることのできる世界、シャンバラはチベット奥地カイラス山の麓にあるとも言われています。

ヒンズー教にとってカイラスはシバ神の住む山です。
チベット人にとっては聖人パドマサンバヴァが今でも住んでいる山です。
仏教では須弥山がこの山にあたると考えられています。

この地にシャンバラがあるかないか?
筆者の経営するまんだらやでは、昨年の9月よりこの山を巡礼するツアーを企画しました。

そして5000メートルの高度に順応するため、参加者はヨガの先生の指導により、呼吸法の訓練に励みました。
そして筆者はシャンバラを感応する高度の意識となるために、今回の灌頂を受けにインドに向かったのです。

カーラチャクラ灌頂


昨年のカーラチャクラ灌頂は、一昨年ダライ・ラマ法王が体調を崩し中止になったため、
チベット人にとっては2年ぶりのお祭りです。
場所もお釈迦様が悟りを開いた土地ブッダガヤです。

会場周辺は全世界にいるチベット人が集合し、4日間の儀式に述べ10万人の参加者があったそうです。
大きなテントで囲まれた会場が、ブッダガヤの大塔の西側に設営されました。

テント内に入るには身分証明書が必要です。
製作には顔写真と点検されながらパスポートナンバーを控える厳重なチェックでした。

儀式当日、会場の外はダライラマの声を聞こうとするチベット人たちで埋まっていました。
彼らのうらやましげな視線に見送られ、
ぎゅうぎゅうの列を押し合いながら金属探知機のゲートをくぐって会場に入りました。

中には10人ほどのガードマンが待ち構えて手荷物チェックです。
会場の北側にはダライラマ法王や招待者たちの席、西側には私たち外国人の席、
南側にチベットの僧侶たちが座ります。

カーラチャクラ灌頂の儀式は4日間に渡って行われます。
前日用意した座布団代わりのクッションに座り、四日間の長い儀式が始まりました。

                              参加者の様子。
儀式次第   (ダライ・ラマの密教入門/光文社・知恵の森文庫/石浜裕美子訳より抜粋)
一日目
法王は「フーン・アハー・オーン」と唱えながら金剛杵を持った手で香水をすくい
額・喉・胸の三ヶ所を観想により加持します。

次に受者に花・香・灯明・閼伽・飯食を授与します。
受者は聖水をもらい三回に分けて飲み、自身を金剛サッタ(覚りを得ようとする菩薩)と観想し
吉祥草を授与されます。

この草は今晩寝るときに枕の下とベッドの下に入れ、右脇を下にして眠りに着き、
シャンバラからのメッセージの夢を受けるのです。
(ちなみ筆者は、ダライ・ラマから日本に帰り密教を伝えるよう命じられている自分の姿を夢見ました)
二日目
今日はカーラチャクラの世界、時輪(カーラチャクラ)曼荼羅に入る日です。

受者は法王の質問に答え「わたしは。幸せ者で。大楽を求めています。」と答えます。
受者は曼荼羅の東門から入り不空成就、宝生、阿弥陀、大日如来を観想し、如来と一体になります。
法王に誓いを与えられ、逆らうと地獄に落ちることを告げられます。

受者はカーラチャクラ尊と一体化し、額に白いオーン、胸に黒いフーン、頭頂に緑のハーン、臍に黄色いホーホ、
喉に赤いアーハ、秘所に青いクシャハを観想します。目隠しをした受者は曼荼羅に向かい花鬘を投げます。
三日目
受者は水灌頂(五大の浄化)、宝冠灌頂(五蘊の浄化)、目隠し灌頂(氣の浄化)、
五鈷杵五鈷鈴灌頂(左右二脈の浄化)、禁欲灌頂(感覚器官と感覚対象の浄化)
名前灌頂(口・手・足・尿道・肛門・性器の浄化)、許可灌頂(知性と意識の浄化)を受けます。
四日目
真言と目薬と明鏡と弓矢の授与を受けます。

この目薬は日本の伝法灌頂ではコンペイという法具を見ることで、眼病を治すと暗示させられます。
つまり私たちは知性のない無明の闇にいる盲者なのです。
そこで目薬を授かることにより、光明を得たと暗示させられるのです。

この後に続く金剛阿闍梨灌頂で五鈷杵、五鈷鈴、印を与えられ、
煩悩が如来の智慧に変化した「転識得智」という密教独自の考え方を伝えられます。
これにより受者は左手と右手を交差させます。

これは金剛鈴の象徴である般若の智慧(空性)と、
方便と慈悲の象徴である金剛杵(大楽)の統合を意味します。

これにより神人合一の境地が開けた、即身成仏の意識となったことを意味するのです。
これはまたタンカ(仏画)に描かれた明妃の姿を抱くカーラチャクラ尊の姿をも意味するのです。
伝法灌頂と金剛杵


 
密教は言語においては、真実が伝えられないと考えます。
そこで象徴性において伝えようとするため、初心者にとっては複雑すぎるように思えます。

筆者はカーラチャクラ灌頂のつい3ヶ月前、2002年の10月30日高野山において伝法灌頂を受け阿闍梨となりました。
その時の日本の灌頂も今回のチベットの灌頂も基本的にまったく同じものでした。

両者の儀式で伝えられる金剛杵は菩提心(覚りを得ようとする心)の象徴です。
密教が金剛乗と言われるのもこのためです。
大阿闍梨から「戒を守らないと金剛杵で頭を打ち砕く。」と言われます。

そして日本では胎蔵界(物質世界)に入るのですが、チベットではカーラチャクラ尊の明妃の子宮の中に入ります。

共に意識が子宮の中に入り、新しい意識レベルの世界に生まれ変わる再生の儀式なのです。

ダライ・ラマ法王のエネルギーは金剛杵を通して送られてきますが、
金剛杵は男性のシンボルでもあり、金剛界という精神世界のシンボルでもあるのです。

チベットのラマ僧たちは、ヒーリング(お加持)の際に、金剛杵や独鈷杵で彼らのエネルギーを受者(患者)に伝えています。
つまり宇宙のエネルギー「氣」を流すことにより、患者の心を覚りを求める心に変えようとしているのです。

カーラチャクラの覚りへの技法


カーラチャクラ・タントラの修行論には12種類の風(ルン)「氣」が説かれています。
風あるいは心の粗大なレベルを、瞑想やヨガで静めていくと、微細なレベルが機能し始めます。

ヨガの中でも強力なものはクンダリーニ・ヨーガです。
赤い女性尊を「消し炭」の熱として尾てい骨に観想し、ふいごのように肛門から風「氣」を送りこみます。

熱してくるとそれが赤い滴となり上昇します。頭上には白い氷を観想します。 

その赤い滴が頭上に上昇し、白い滴がぽたぽた落ちて赤い滴と出合う時、大楽という快感が生じるのだそうです。
無上ヨーガ・タントラにはこのような修行法が多数あります。

『だから簡単に言えば知恵としての真理の身体や、形ある身体を得るための直接の質料因は、
 ただ密教によってのみ達成できるものなのです。
 こうして過去の仏陀達は「無上ヨーガ・タントラ」の技法によって完全な覚りを得ていたのです。』
                                                      (ダライ・ラマの密教入門67ページ)

カイラス山への巡礼の旅


チベット高原は4000mの砂漠の台地です。ここで風「氣」の文化が密教と共に栄えた理由は、
その高度と乾燥地帯であるという事が必要なのです。
氣の感覚は高度が上昇するほど明確になります。

7年前にインドの小チベットと言われるラダック(3500m)に行きました。
そこのチベット僧院は誰にでも分かるような重厚な氣が渦巻いていました。

ラサの周辺の仏教寺院の氣も素晴らしいものでした。
どこも曼荼羅や仏像から出る氣のエネルギーだけではなく、僧侶の唱える祈りのエネルギーも増幅の役に立っていました。

このような台地で浄土のイメージを見るのはたやすいことでしょう。
脳内の酸素が少なくなると、人は幻覚を見るようになります。

無酸素でヒマラヤ8000メートルを数多く登った登山家ラインホルト・メスナーは、高山には異次元が存在すると述べています。 
中でもカイラス山はチベットの人々が五体投地をしながら巡礼することで有名な聖山です。

カイラスへの旅は、チベットのラサより私たちは4WD2台に分乗しギャンツェ、シガラツェの村を抜け
ヒマラヤを南に見ながら道なき道を進みます。

サポートトラックにテントを積み、川の水を汲むワイルドな旅です。
マナサロワール湖まで6日間の旅になります。

酸素の少なくなった世界は幻覚の世界なのでしょうか?
それとも十分に酸素のあるこの世界が幻覚なのでしょうか?

はたしてシャンバラはどのような形で存在しているのでしょうか。