あなたへ
何気なく導かれて、映画「あなたへ」を見た。

映画は密教芸術だ。

富山にある刑務所の指導技官、倉島英二(高倉健)のところに20歳以上の年齢差のある
亡き妻(田中裕子)の残した絵手紙が届く。

一枚には、一羽の雀の絵と共に「故郷の海を訪れ、散骨して欲しい。」と書かれ、
もう一枚は、彼女の故郷長崎県平戸市の郵便局の局留めになっていて、
受け取り期限まであと10日になっていた。

そこで英二は妻との想い出の自作のキャンピングカーで富山を発って、1200キロの旅に出る。

最初の出会いは、高級キャンピングカーの持ち主、元中学校教師の杉野(ビートたけし)だった。
共に妻に先立たれた男たちが、語り合う。

杉野は言う
「旅と放浪の違いを知っているかい?」「旅には帰る所があるけど、放浪にはないんだ。」

若いときには人生に目的がある。
でも誰にでも目的の終わりが来る。

だから放浪のように目的のない旅が人生なのかもしれない。

杉野は英二に、人生を放浪の旅に過ごした俳人、種田山頭火の本を贈る。



種田山頭火を知っているだろうか?
幼少の頃に母が自殺、生家が破産、父弟の死に出会い、43歳で曹洞宗で出家得度。
行乞(乞食)の修行をしながら狂気と紙一重の人生を過ごす。


「なにやら かなしく 水のんで去る」

「分け入っても 分け入っても 青い山」

「水音の 絶えずして 御仏とあり」



次に出会うのが、イカ飯の実演販売をしている田宮(草薙剛)と南原(佐藤浩市)。
彼らと共に過ごすうちに家族の悩みを聞いていく。


平戸に着き散骨を依頼するが、漁業組合では断られる。
そこで南原に聞いた釣り宿に向かう。

暴風雨の中、途中に食事をした店の女主人・多恵子(余貴美子)が一夜の宿を貸す。
そこで彼女の夫の海遭難事故を聞く。

散骨の日、多恵子に写真を預かり、英二は船に乗る。

英二は刑務官の人生で始めての過ちを犯す決意をする。

散骨の時、年老いた船頭(大滝秀治)は、「久しぶりに美しい海を見た。」と呟く。


プログラムに書いてある高倉健の言葉:

質問

「平戸の海で出会う、漁師役の大滝秀治さんの演技に涙されたと言いますが?」

高倉健

「あれは本当に参ったな。ボクの目の前でパッと振り返って『久しぶりに美しい海を見た。』と大滝さんが言った瞬間、
あの芝居の相手でいられただけでも、この映画に出演してよかったと思った。

あの大滝さんの台詞の中に、監督の思いも、ライターの思いも入っているんです。

あのあたりは、天草の乱の頃からいじめられて、そこに住む人に見えるものは、美しい海ばかりではないんだ。
そんな場所と人のすべてが入っていて、大滝さんはそういうものをサラリと言ってらっしゃるからね。

そういうものを監督はいろいろなところにちりばめているんです。

それは映画を見てもわからない人にはわからない。
でも監督は「わからなくていい。」と笑ってます。
いちいちわかるように説明していたら、映画なんか撮っていられない。

大滝さんはわかっていらっしゃった。

やっぱりそういう察する文化って、いいと思うんです。
はっきりとは言わない。
戦後には言うほうがアメリカ的な良い文化もあったのですが、今はチョット違ってきていると思うのです。

そういう思いを伝えるために俳優や美術や音楽の担当者がいるのです。
本当に降旗康男監督は凄いと思ったんです。」


               


言葉を使わずに切り詰めた高倉健の表現が素晴らしい。

種田山頭火の、俳句に似て、言わずに語る方法。

それが密教かもしれない。

    

共演者は皆、高倉健のオーラを絶賛する。
存在感とはその人の人生に対する意思であり、他者に対する優しい心遣いなのかもしれない。

降旗泰男監督78歳、高倉健81歳、大滝秀治87歳、年齢を重ねた男たちの美しさを学んだ。

私も年を取るのが楽しみになってきた。

さぁー・・頑張るぞ!!

亡きチャン・ツィーはハワイとヒマラヤに散骨。
ジャン・ギャバン(フランス沖)、スティブ・マックイーン(太平洋沖)、勝新太郎(ハワイ沖)、
石原裕次郎(一部を湘南沖)に散骨。

私も墓の中に入るよりも、ヒマラヤのふもとに散骨されたい!!


テーマソング:

さそり座のアンタレスを赤い目玉のサソリ、 
大犬座のシリウスを青い目玉の子犬と表現する、
幻想的な宇宙規模の童謡が亡き妻の持ち歌としてバックで流れる。

【星めぐりの歌】   宮沢賢治・作詞作曲

あかいめだまの さそり

ひろげた鷲の  つばさ

あをいめだまの 小いぬ、

ひかりのへびの とぐろ。


オリオンは高く うたひ

つゆとしもとを おとす、

アンドロメダの くもは

さかなのくちの かたち。


大ぐまのあしを きたに

五つのばした  ところ。

小熊のひたいの うへは

そらのめぐりの めあて。