エベレスト護摩・1
 
高度順応

エベレストで護摩を修法しよう。

そう思ったときから問題は高度順応になるとわかっていました。

25歳のときエベレストBCを目指し、4900メートルで敗退した経験があります。
そのときは前日頃から睡眠もとれず、一歩、歩いては三回ほど呼吸する苦しい症状がありました。

2008年5月26日、75歳で再度のエベレスト登頂をした、三浦雄一郎さんはご自身の経験を開放し、
高度順応トレーニングを普及させていました。

トレーニングは三回にわたります。
通常の標高では、空気中の酸素量は23パーセントあるそうです。

一回目は4000メートルで12.5パーセントの酸素濃度。
二回目は5000メートルで11.5パーセント。
三回目は5500メートルで10.5パーセントの酸素量でのトレーニングでした。

20分間の順応体験の後、一時間の運動です。
30分ほどで頭がボーっとしてきます。

仲間とお話ししていると、血中酸素濃度が70を切っています。
あわててローソクを吹き消すように、大きく息を吐きだすと、鼻に酸素が入ってきます。

これを何回か繰り返すうちに、血中酸素濃度が85から90に上がります。
ところが肺活量がなかったり、呼吸法が悪いと酸素を取ることが出来ません。
心拍数も上昇し、歩いている運動だけなのに100を超えてしまうのです。

途中で、般若心経を唱えてみました。
仏説般若・ハラミッタ・・・三分の一もいかないで、呼吸が出来なくなります。

仕方がないので、少しずつ区切っては、息を吸うという呼吸法をしながら、心経を読呪しました。
普通の倍の時間がかかりました。

最初は、エベレストで法螺貝を吹いたりしたいと思っていましたが、無理ということが体感できました。

         

三浦雄一郎さんのコトバに
「目標が厳しければ厳しいほど、大きな力が湧いてくる。」とありました。

わたしの目標は世界平和・・・祈願の方法は、火天(アグニ)にメッセージを託す・・護摩修法。
これは1200年前からの密教の祈願法です。

果たしてタンボジェ僧院での護摩と、カラパタール(5545m)での祈願が叶うのでしょうか?

        

エベレスト護摩


エベレスト護摩(世界平和祈願)・・このタイトルは39年前に登れなかった「カラパタール:5545メートル」に
もう一度行ってみたいと思ったときから始まりました。
当時は登山と冒険の好きな若者でした。

そして三十数年がたって、真言宗の阿闍梨となっていました。
そこで、登山と祈願が結びつき、山岳修行・・・修験道の世界観でエベレストを見直し始めました。

霊山エベレストの中腹には「タンボジェ僧院:3867メートル」があります。
39年前にはここにある「秘宝イエティ(雪男)の頭の皮」を拝観しました。

異次元(神々)世界の存在はここでは常識なのです。

ネパールの首都カトマンズから16人乗りの軽飛行機で、11月5日にはルクラ飛行場へ降り立ちました。
それから一日5時間のゆっくりした歩行を繰り返し、9日にはタンボジェ僧院に着きました。

そこで僧院の代表者に挨拶し「エベレスト・世界平和祈願・護摩」の協力を依頼しました。

      

人里離れた3800メートルのタンボジェ僧院。
ここでの護摩は多くのチベット僧の助けなしにはありえないことでした。
でもこの僧院が最高の氣を受ける場所(聖地)に出来ているのです。

「念(世界平和祈願)という意識エネルギー」を「天にまします存在」に届けたい。

そんな思いから、最高標高に建つ「タンボジェ僧院」での護摩を思い立ったのです。

おかげさまでチベット密教の護摩炉(摩尼宝珠型)をお貸しいただき、
同行の高橋一天:阿闍梨と11月9日4時から一時間、滞りなく古式にのっとって修法させていただきました。

              

その間、あれこれとなくお手伝いいただき、また僧侶たちは同じ密教であるテキストを覗き込み、
印を興味深く真似をしたりしていました。(いいのかな〜・・・?

タンボジェ僧院での護摩を終え、次の目的はエベレストの展望地カラパタールでのタルチョ(五色旗)展開です。

タルチョには日本の人々の祈願文が書きこまれています。
ネパール・チベットではタルチョに書かれている経文が風に揺れると、
その功徳が世界に広がると考えているのです。

タンボジェ僧院から5日目・・・高度順応もうまく行き、
朝5時出発で11月13日10時にカラパタール(5545メートル)に到着しました。

ここで修験装束に着替え、般若心経など一連の御真言をお唱えし、世界平和を祈願しました。

        

密教で考える世界には、内的世界(心の内側)と外的世界(現実的世界)があります。
ところが認識が世界を創っているという仏教の基本理念からすると、世界は内的世界しかないのです。

あなたの心が完成していれば、世界は平和であるはずだ!!

ところが世界には多くの「あなた」がいます。

「俺が、俺がというジャッジ(分別)」を外し、自他不二(他者を思う心)の思考法になりたいものです。
体験が人々を成長させる。

世界平和祈願を終え日本に帰国した日に、北朝鮮からの爆撃事件が発生しました。

はたして人類は地球にとって必要な生物なのでしょうか?

1・修験道から見たエベレスト

日本には「山は神である」という信仰が古来よりあります。
古来の考え方は、里と山、これが俗と聖の二元論なのです。

沖縄では、海の彼方に聖なる世界があると信じていました。
あの世とこの世の他界信仰です。

ここから神奈備山の信仰が始まりました。
古来の人にとって山に行くということは、聖なる世界(あの世)に行くことだったのです。

今回のトレッキングについてくれたガイドの名前は、ラム・カジさんです。
聖地カイラストレッキング33回(33観音霊場巡り)のベテランです。
外国人の名前を覚えるのは難しいのですが、彼は簡単でした。

真言宗には「ラン・バン・カジ(加持)」という行法があります。
ランは火、ヴァンは水の意味なのです。

そうなのです、ラン(火)・カジ(加持)さんは真言宗にとって最高の名前だったのです。
今回の目的は達成されたようなもの、そう名前を聞いたときに直観しました。

ルクラから歩いて二日目、クンビラという三角形の山が見えて来ました。

      


クンビラとはヒンドゥー教の神の名前です。
日本に渡来して「四国讃岐の金毘羅(コンピラ)さま」となりました。

ガイドに文字の意味を聞くと、クンブー地方の「ラ」と答えてくれました。
「ラ」とは「火」とか「三角形」の意味があるとのことです。

真言宗の胎蔵界曼荼羅の中には、一切智印(サルバ・ジュニャーナ)という本尊が最高位の位置に描かれています。
これが火に包まれた三角形のしるしなのです。

このようなエベレスト街道にはチベット密教のしるしが至るところに残されています。

      

まず出会ったのが、マニゲート(山門)です。
それ以外にもストゥーパ、マニ石、メンダン、タルチョ、マニ車など多くの祈願文がヒマラヤの景色を彩っていました。

密教では、「五色の色」と「聖なる形=三角形」と「聖なる文字」が重要視されるのです。

      

2・修験の風景


ヒマラヤは、今でも「神々の座」とよく呼ばれることがあります。
形だけのものかな、とこれまでは思っていました。

ところが今回の山行で、いまでも神々の痕跡が残っていることを発見しました。

エベレストを目指しルクラを降りて二日目にクンビラ(金毘羅)山のふもとのナムチェ・バザールに着きます。
ナムチェとはナム・チェ(台地)なのです。

ナムとはナマステというこんにちは・さようなら(あなたに帰依します)の意味を持つネパール語です。
これが仏教語として日本に渡来し、南無(あなたに帰依します)になりました。
音写語ですので漢字に意味はありません。

ナムチェ・バザールからタンボチェに向かう東の方向に「アマ・ダブラム」という前衛峰を抱えた山があります。
ガイドに意味を聞くと「アマ(お母さん)・ダブラム(子供を負ぶった)」になるのだそうです。

         

この下を流れる河を「ドゥードウ・コシ」と言います。
ドゥードウとはミルクのことです。
石灰岩が混じって白くにごった河の色がミルクのように見えるからです。

その山の奥に、西洋人が発見し命名したエベレスト(人名)があります。

ネパール語では「サガル・マタ」と呼びます。
サガルとは偉大な、マターは母親だそうです。

ユングはこのことをグレート・マザーと命名しました。

エベレストの横にあるプモリ(7145m)は白銀の花嫁だそうです。
女性性で彩られた神々の座、エベレスト周辺。

父親優先のいままでのキリスト教的世界観から、母親優先のアジア的世界観を願っています。
その原型がここにも描かれていたのです。

ヒンドゥー教はシヴァリンガというシンボルに白いミルクと赤いティカをこすり付けます。
シヴァリンガ(男性性器)の頭からは白い河が流れていて、それがガンジス川につながるのです。

そのヒンドゥー教のシンボリズムがここネパールの山の名前にも残っていたのです。

神話が人類の思想の原型であるという、ユングの教えに、またここで出会いました。
これからも神話の力を探求したいものです。

3・動物たちのエベレスト

エベレストというと、雪と氷の世界と思えてしまうかもしれません。
ところが山の周辺には動物たちのサポートする豊かな世界が繰り広げられているのです。

ナムチェバザールから上の運搬は、ヤク(毛の生えた牛)の独擅場です。
大きな身体で100キロ近い荷物を運びます。

ヤクの糞は重要な燃料になります。温かいままの糞を壁に貼り付けます。
乾くと下に落ちるのでそれを拾って再乾燥させます。
これがストーブの燃料となるのです。

         

野生の動物でよく見かけるものは、マウンテン・ゴートです。
岩の上に立ってバランスを取っていた姿が、一瞬にして登山道を横切り山の上から川の水を飲みに降りてきます。

10頭ぐらいの集団で行動していますが、中のリーダー格のオスが引き連れているのです。

         



雷鳥やカラスなどの鳥類の種類も豊かです。
鳴きウサギの声も聴きましたが、写真は撮れませんでした。

多くの動物に囲まれた大自然:ヒマラヤ、これからも登り続けたいと思いました。